ホーム   >  学会レポート   >   2010年   >   AHA2010   > EMPHASIS-HF: NYHA II度の慢性心不全患者におけるエプレレノンとプラセボの死亡または心不全入院に対する効果の比較
[学会情報]米国心臓協会(AHA)学術集会2010
(2010年11月13日~17日 in シカゴ)
編集部が選ぶ注目トライアル
Late-Breaking Clinical Trials I
<Late-Breaking Clinical Trials I>
EMPHASIS-HF Eplerenone in Mild Patients Hospitalization and Survival Study in Heart Failure
NYHA II度の慢性心不全患者におけるエプレレノンとプラセボの死亡または心不全入院に対する効果の比較
Comment: Dr. Peter Liu   EMPHASIS-HF:心不全患者に新たな希望
Dr. Clyde W Yancy   EMPHASIS-HF:適応患者の垣根は完全に取り払われた

試験背景/目的 過去に行われたRALES試験およびEPHESUS試験において,慢性重症収縮期心不全および心筋梗塞後の心不全患者におけるミネラルコルチコイド受容体拮抗薬エプレレノンの生存率改善効果が示された。比較的軽症の慢性収縮期心不全を対象とし,標準的な治療へのエプレレノンの上乗せ効果をプラセボと比較するEMPHASIS-HF試験が行われた。

本試験は中間解析にてエプレレノン群のプラセボ群に比した有用性が規定の中止基準を上回ったため(P=0.000001),2010年5月25日に試験早期中止となった。

一次エンドポイントは心血管死+心不全による入院。

11月14日のLate-Breaking Clinical Trialsにおいて,Faiez Zannad氏(University of Nancy)がこの試験を発表した。また,同日,New England Journal of Medicine誌の電子版に論文が掲載された。

試験プロトコール EMPHASIS-HF試験は二重盲検ランダム化比較試験であり,29ヵ国278施設が参加。対象は,55歳超,NYHA II度,左室駆出率(LVEF)≦30%(31~35%の場合には,QRS幅>130ミリ秒),ACE阻害薬/ARBおよびβ遮断薬を推奨用量または最大用量にて服用中,心血管病による入院後6ヵ月以内(入院歴がない場合にはBNP≧250pg/mLまたはNT-pro BNP≧500pg/mL[男性]または750pg/mL[女性])。
血清カリウム値>5.0mmol/L,推定糸球体濾過量(eGFR)<30mL/分/1.73m2,カリウム保持性利尿薬を要する患者は除外。

エプレレノン群(1,364例。25~50mg/日)とプラセボ群(1,373例)にランダム割付け。

追跡期間中央値は21ヵ月(4,783人・年)。

試験結果 患者背景は,平均年齢はエプレレノン群68.7±7.7歳,プラセボ群68.6±7.6歳,女性22.7%,21.9%,高血圧66.7%,66.2%,糖尿病33.7%,29.1%,eGFR 71.2±21.9mL/分/1.73m2,70.4±21.7mL/分/1.73m2,血清カリウム4.3±0.4mmol/L,4.3±0.4mmol/L。
既往症は,虚血性心疾患69.7%,68.1%,心筋梗塞50.3%,50.6%,心不全による入院52.3%,52.9%。LVEF 26.2±4.6%,26.1±4.7%,心房細動/粗動30.0%,31.7%,QRS幅>130ミリ秒25.5%,26.3%であった。

ベースライン時における投与薬は,ACE阻害薬/ARB投与はエプレレノン群94.0%,プラセボ群92.9%,β遮断薬86.6%,86.9%,利尿薬84.3%,85.7%,植込み型除細動器13.0%,13.4%,CRT-P 2.8%,1.6%,CRT-D 5.4%,7.2%,ジギタリス配糖体26.6%,27.5%,抗不整脈薬14.4%,14.0%,抗血栓症薬88.3%,88.4%。

一次エンドポイント発生率は,エプレレノン群(18.3%)はプラセボ群(25.9%)より有意に少なかった(ハザード比[HR]0.63,95%信頼区間[CI] 0.54~0.74,P<0.001)。
また,全死亡(HR 0.76,95%CI 0.62~0.93,P=0.008),全入院(HR 0.77,95%CI 0.67~0.88,P<0.001),心不全による入院(HR 0.58,95%CI 0.47~0.70,P<0.001)のいずれの発生率も,エプレレノン群のほうが有意に低かった。

[サブグループ解析]
年齢,性別,地域,収縮期血圧,脈拍,心拍数,eGFR,LVEF,QRS幅のほか,虚血性/非虚血性,試験薬以外の治療状況,既往症の有無やCRT/ICD植え込みの有無などによる,サブグループ解析を実施したが,いずれのサブグループにおいてもエプレレノン群はプラセボ群よりも一次エンドポイント発生率が有意に低かった。

有害事象の発生率はエプレレノン群(72%),プラセボ群(73.6%)で有意な群間差は認められなかった(P=0.37)。エプレレノン群の発生率が有意に高かったのは高カリウム血症のみ(8%,3.7%,P<0.001)。ただし,高カリウム血症による入院に有意差はなく,また,腎不全増悪による入院にも有意な群間差は認められなかった。

パネリストであるFaiez Zannad氏は,「心不全標準治療へのエプレレノンの上乗せ投与は,NYHA II度の収縮期心不全患者においても有用であり,忍容性も良好であることが示された。今回の結果は,先行して行われたRALES試験およびEPHESUS試験の結果と一貫するものであり,今後の日常臨床に大きく影響する有力なエビデンスとなる」との見解を示した。

▲このページの上へもどる